3.4 ヒトの成長を進化からとらえる
https://gyazo.com/68191fb0ef6228bb11f91bad178bccdb
青少年の発達や、青少年から成人への転換期の外部環境に対する感受性とその行動に対する影響について、システマティックな研究を行ってきた
精神的・生物的反応は環境の影響に対する感受性を反映するととらえ、この生物的感受性は、早い発達段階で得た経験がその後の発達に対する影響を調整するものと考えた
縦断的研究を通して、父親の子供に対する投資や家庭内関係が、どのようにして幼児の生物学的ストレス反応や、思春期開始のタイミング、初めての性的経験、妊娠や早期妊娠の可能性に影響を及ぼすのか研究している
恋愛と性的関係についても研究し、社会的排斥や自尊心はどのようにして親密的な関係に対する投資や動機水準を調整するのか、そして人格による男女間の関係への影響についての研究も行っている
エリスは以下の知見を生み出している
父親の投資の質は、親密な家庭環境における最も重要な特徴であり、女の子の思春期の発達に影響している
再婚後の義理の父親の存在と、家庭内関係の圧力とは、それぞれ独立に思春期前前期の成長に影響する
両親の投資の質は、親密な家庭環境の中心的な特徴であり、女の子が初潮を迎えるタイミングと顕著に相関している
生物学上の父親がいない家庭環境で育った女の子は、比較的早く思春期に入る。また、幼少期に家庭内の決裂や父親との別居などといった、父親を原因とした混乱を経験した女の子は、同年代の人に比べて明らかに早く初潮を迎える
私の最初の学術論文は性的ファンタジーに関するもの
私の初期の経験のどれもが、発達プロセスについてほとんど考慮していなかった
このアプローチが繁殖戦略を形作る発達過程における経験の根本的な役割を無視していた→このアプローチに満足できなくなった
私は、発達途上の個人が、初期の繁殖戦略ー思春期開始のタイミング、性的経験の開始年齢、繁殖の開始ーと社会的・身体的世界を適切にマッチさせるために、自身の成長経験をどのように利用するかを知りたいと思った
私の研究
自分のキャリア全体にわたる目標として、私は進化生物学と発達心理学を融合させた新しい研究分野の創設を掲げている 発達経験の進化モデルの生成・検証に研究の焦点を当ててきた
理論構築のレベルにおいては、家族環境や幅広い生態学的文脈の中に存在する特定の特徴に対する子供の脳の反応が、進化の過程でどのように形作られてきたかを説明する新たなモデルを検討してきた
理論検証のレベルにおいては、父親、家族関係、社会生態学的状況が、子供の生物学的ストレス反応や、思春期発達の開始時期、また、初めての性的経験や妊娠に与える影響を検証した
私の研究では、環境的影響に対する神経生物学的感受性における子どもたちの個人差を検討することにも焦点を当てている
私の理論的、実証的研究の多くは、子ども時代の経験と思春期発達との間の因果関係を検証するもの
ある画期的な理論の肩の上に立っている
ジェイ・ベルスキー(Jay Belsky)と共同研究者が1991年に初めて発表したもの(Belsky, Steinberg, & Draper, 1991)で、子供時代の経験、人間関係の志向性、繁殖戦略を関連付ける理論 この理論では、家族外の環境におけるストレスとサポートのレベルが、家族ダイナミクス(夫婦関係、親子関係)に影響し、そのまま、子供の初期の情動的・行動的発達形成や、その発達を通じた思春期以降の性的発達や性行動の形成に影響すると提唱した
さらに、この理論の主張によると、環境に影響を受けるこの発達システムは、個人が自らの置かれた環境に適合する方法として進化してきたのであり、また、その適合プロセスは、様々な生態学的状況下において、生存率と繁殖成功率を高める機能を持つ
私は、この理論に由来する中心的な命題、特に家族環境と思春期開始時期の関係に関する命題を検討する一連の前向き長期追跡研究において、中心的な役割を果たしてきた(Ellis et al, 1999, 2003; Ellis & Essex, 2007; Ellis & Garber, 2000; Ellis, Shirtcliff et al., 2011; Tither & Ellis, 2008)
理論的・実証的研究に基づいて、ベルスキーのもともとの理論に、以下のような様々な修正や拡張を加えてきた
家族環境を再分析し、厳しく対立的な家族ダイナミクスと温かく支援的な家族ダイナミクスを区別して、それぞれが思春期発達に与える相対的な効果を調べた
Ellis et al., 1999では、就学前により温かく支援的な養育を経験した女の子は、思春期発達が遅いことがわかった
娘の性的発達を調整する上で、父親やその他の成人男性が果たす独自の役割を強調する、父親の投資に関する補足的な理論を発展させた
この研究によって、生物学的父親と長い時間一緒に過ごし、父親が養育に多く関わった女の子は、思春期開始が遅く、リスクのある性行動に関与することが少ない一方で、継父との場合は逆の効果をもたらすことが示されている(Deardorff, Ellis et al., 2010; Ellis et al., 1999, 2003; Ellis & Garber, 2000; Ellis, 2004; Ellis, Schlomer et al., 2009; Tihter & Ellis, 2008)
子ども時代の中でも特に感受性の高い時期に起きる変化の重要性を、初期の思春期発達を左右する決定要因として理論に組み込んだ
この研究から、社会的に逸脱した父親にさらされるという早期の変化が、思春期を早めることが示唆された(Tither & Ellis, 2008)
社会経済的地位、家庭での心理的ストレス、中期子供時代の脂肪沈着、思春期の開始を関連付ける媒介モデルを構築した
この研究により、母親のうつと夫婦間の対立が思春期発達を早める効果は、中期子ども時代のBMIの変化を介して作用することが示唆された(Deardorff et al., 2010; Ellis & Essex, 2007)
現在の私の研究は子供時代の経験と性的発達に関して、遺伝情報をも含んだ因果関係の検討に焦点を当てている
発達経験についての進化理論では、家族環境は思春期開始タイミングに因果的に影響するとされる
しかし、代替仮説である行動遺伝モデルはこの影響が見かけ上のものに過ぎない可能性を示唆している
機能不全家族における早熟な思春期発達と関連する特徴の遺伝的負荷が大きいことによるアーティファクトである可能性
私は遺伝的に、そして環境的に統制されたきょうだい比較手法を開発した
この手法の主眼は、成長期に生物学的両親の離婚を経験し、離婚後は基本的に母親と生活してきた、年齢が異なり生物学的両親が同じ姉妹を比較すること
例えば、その姉妹が7歳離れているとすると、姉の子供時代の環境は、生物学的に欠落のない、父親のいる家族と居住していた期間が七年長いという特徴を持ち、一方、妹の子供時代の環境は、家庭に実後違いないという生物学的に分断された家族と居住していた期間が七年長いという特徴を持つ
ニュージーランドの研究(Tither & Ellis, 2008)では、この曝露期間の差は、初潮年齢に強く影響していた
アメリカの研究では、この曝露期間の差は、姉妹たちのリスキーな性行動に影響していた(Ellis, Schlomer et al., 2009)
私達は、例えば、父親似社会的逸脱行動の前歴がある離婚家庭において、妹が姉よりも1年近く早く思春期を経験することを発見した
また、妹は、問題のある父親にさらされなかった妹達と比べても、やはり1年ほど早く思春期を経験していた
ここから、子ども時代に高いレベルでストレス(社会的に逸脱した父親)にさらされ、その後ストレッサーから開放された(離婚に伴う父親の家庭からの退場)少女は、非常に早い思春期を経験する傾向にある
状況への生物学的感受性
個人はそれぞれ異なる特徴を持つものだが、そのことによって、環境中のストレッサーや逆境からどれほどのネガティブな影響を受けるかに個人差が生じるだけでなく、環境中の資源やサポートからどれだけポジティブな影響を受けるかについても違いが見られることがわかってきた(Belsky, 2005; Boyace & Ellis, 2005; Ellis, Boyce et al., 2011)
けれども、最も注目に値するのは、逆境に対して個人を過剰に脆弱にするまさにその特徴が、時に状況に見合ったサポートから利益を得る傾向を高めるものでもあるという結果が繰り返し得られていること
言い換えると、特定の特徴を持っていると、良い方にも悪い方にも環境的影響を受けやすいということ
トマス・ボイス(W. Thomas Boyce)との共同研究から、そうした特徴の一つは、環境的・心理的課題に対するストレス反応システムの生物学的反応性であることが示され、私達はそれを「状況への生物学的感受性」とよんでいる(Boyce & Ellis, 2005) 生物学的感受性が高い子供は、親の投資の多寡、学校環境や先生の良し悪し、様々な社会的プログラムや介入によって、より大きな影響を受ける
親のサポート傾向が青年期初期の思春期発達に及ぼす影響は、状況への生物学的感受性に依存する(親のサポート傾向が高く、かつストレス反応性が高いと、初期青年期の思春期発達が最も遅くなる)ことが、最近の研究から示されている(Ellis, Shirtcliff et al., 2011)
私達は子ども時代の経験が生活史戦略(例えば、思春期開始時期、初産年齢、子供の数、親の投資の質)に与える影響の多くが、儒教への生物学的感受性に左右されるだろうと予測し、またこの仮説を検証しようとしている 私達は、また、状況への生物学的感受性の発達における個人差に関して、状況的適応モデルを提唱している
初期に逆境にさらされることと、子供の状況への生物学的感受性の発達は、U字型の曲線で表される関係にあり、非常にストレスフルな初期の家庭環境と非常に保護的な初期の家庭環境の両方で状況への感受性性が高まるという仮説を立てている(Boyce & Ellis, 2005; Ellis, Jackson, & Boyce, 2006も参照)
この曲線仮説は、初期発達と精神病理学に関する二つの研究によって暫定的に支持されている(Ellis, Essex & Boyce, 2005)
私達は、最近、状況への生物学的感受性の発達理論を修正し、理論の当該部分を適応調整モデル(ACM: Adaptive Calibration Model)と改名した(Del Giudice, Ellis, & Shirtcliff, 2011) 適応調整モデルは、ストレス反応システムの機能と、それに関連する行動戦略における個人差の進化発達理論
適応調整モデルによれば、ストレス反応システムは3つの主要な生物学的機能を持つ
身体的・心理社会的課題に対する生体のアロスタシス反応を調整すること 生体の置かれた社会的・物理的環境についての情報を符号化し、選別することにより、環境からのインプットに対する生体の開放性を調節すること
適応度に関連する幅広い領域(防御行動、競争的リスクテイキング、学習、愛着形成、親和行動、繁殖機能など)にわたって、生体の生理と行動を制御すること
発達期間中にこのシステムによって符号化された情報は、システムにフィードバックされ、その長期的な調整に用いられる
その結果として、反応性の適応的パターンと行動の個人差が生じる
まとめると、私の行ってきた理論的・実証的研究は、家族環境、ストレス生理、性的発達という、3つの大きな構成概念を関連づけようとするもの
進化心理学者になることについての見解
アドバイス
質の高い研究をしてください
進化心理学者に対して非常に大きな偏見があるので、二流の研究ではどうにもならない
自分だけのニッチを見つけてください
自分の旗印を立てましょう